The Ballad of Britain

この本のタイトルを初めて見たときは、ついにこの手の本が出るようになったのだなぁと感動した。

The Ballad of Britain: How Music Captured The Soul of a Nation

The Ballad of Britain: How Music Captured The Soul of a Nation

イギリスのナショナル・アイデンティティーと歌のことを書いてあるんだと思った。まぁ実際にその辺のことは触れられていて、セシル・シャープだの、アルバート・ロイドだの、フランシス・チャイルドといったフォークミュージックのリバイバルに貢献した人びとの名前がごろごろでてくる(この辺のテーマは、ナショナリズムだの、戦争プロパガンダだの、労働者階級文化だの、BBCの発展だのと話題が豊富)。もしかしたら、フォークミュージックの復興に関しては、へんな研究書よりもインフォーマティブかもしれない。

その他、マンチェスターリバプール、それからシェフィールドあたりのロックやらノイズだの、ジプシーの音楽だの、なかなか広い音楽ジャンルを収めている。しばしば言及されるイギリス音楽の乏しさなんて、嘘みたいに聞こえてしまうくらいだ。

この著者は、録音機材を抱えてイングランドスコットランド、そしてウェールズを車で移動しまくり、各地方で聴くことのできる音楽を片っ端から録音する――そんな(プリーストリーの『イングランド紀行』みたいな)紀行文の体裁をとっている。そのためか、この一冊が(あくまで自分にとって)ちょっと残念なのは、音楽とはまったくかかわりない出来事までたっぷりと語っているので、話の焦点がときに見えにくくなる。それと、各地のミュージシャンとの対話が面白いのは確かだけど、もうちょっと著者自身が考えることを語って欲しかった。