Mattinと著作権

先週のMika Vainio来日公演は、あまり楽しめなかった。エレクトロニカと一口に言ってもいろんなアプローチがあるのは当たり前で、Mika Vainioなどのパフォーマンスはダンスフロアにはあまり向かない種類に入るんだろうけど、それにしてもとても散漫な構成がどの出演者にも目立った。非常階段のジJunkoさんとちょっとだけしゃべれたのがせめてものお土産って感じ。

パソコンやテーブル(テーブル上の機材のこと)さえあればひとりでできるから、とても自律的/自立的だけど、へたするとself-indulgentになってしまうのが難しいところ。眠気が襲ってきた。

ところでMattinのこと。『ワイヤー』誌のタッパーに収録されている音源で初体験で、そのときにはなかなか実力のありそうな人だなと思った。壊れた音、亀裂の入った音としてのノイズという構造が認められるならば、その構造に再度亀裂を入れようとするかのようなアプローチ。これは面白いと思った。脆いノイズをさらに突き崩されていくような。

ところでMattinはTaku Unamiとの共作が多いらしい。その作品群はなかなか膨大で、ボクはまったく聴けていない(聴くつもりはあるけど、追っついていけないくらい音源を収集してるもんで)。それと同時に、著作権に関する彼の発言がどうもこの界隈で物議を醸しているらしい。『ワイヤー』誌(312)で彼の写真を初めて見た(表紙を飾っているのは宇崎竜童ではありません。Wadada Leo Smithでござい)。

彼のサイトに行くと、_Noise and Capitalism_という書籍のPDFが無料ダウンロード可能で(この本の寄稿者はなかなか豪華です!)、彼が書いた最終章を読んでみると、とりあえずどういう理由で著作権反対論を展開しているのか、まぁ理解できる。世間の話によくのぼるような、テクノロジーに法制度が追いつけないというレベルではないらしい。おおまかにいうと...

前提として理解しなきゃいけないらしいこと。話はどうもインプロに限定しているようだ。そんでもって、録音技術はたしかにあれど、それはすべてを記録できるわけではない。インプロにおける"creative process"(170)とでも言おうか、その瞬間の、その場の、インプロに関わるすべてを録音技術は残してくれない、と。たとえば、ミュージシャン同士のやりとりなど。録音技術は、音の波だけを物理的に記録するだけだ、ってことなんだろう。

そんでもって次は、フーコーに触れたり、バルトの「作者の死」を引き合いに出したりして、"authorship"批判を展開(Mattinのバルト理解、ちょっと怪しいような...)。

これは推論だけど、実はMattin、自分のサイトから、大量の自分の音源を無料ダウンロードできる状態にしている。その形式がoggとかflacであって、mp3でないのはミソなんだろう。前者の形式に関しては、ライセンス料が発生しないらしいから(ちなみに、これらの形式はiTuneでは非対応。ちょっとした細工をしないとiTuneで聴けるようにはなりましぇん)。上述の書籍PDFにしてもしかり。

細かいところは端折るけど、まぁとにかく著作権反対運動らしきものを立ち上げていて、その名も"Copyleft"運動(ダジャレかよ!←さま〜ず三村風)。あらたな音楽流通を目指そうとしているらしい。

いろいろ突っ込みどころはあるよねぇ。全部の音楽がインプロではないし、"creative process"だって全てのミュージシャン/リスナーが求めているものとは限らないし。ましてや、"creative process"を流通させるのではなく、あくまで音波を物理的に記録したものを販売しているのだと、著作権擁護論者は言うかもしれないし。インプロミュージシャンのフトコロ状況だって、(特に「100年に一度の不景気」以降)決して余裕なんてありゃしないし。と、いろいろ不満もある。

不満もあるけど、Mattinに同調したくなる状況もある。たいていの音楽はクズだから。たいした技術もないがために、誰が作ったか、誰が楽器を弾いたのか、誰が録音しているのか、かなり疑わしい音源ばかりがこの社会には溢れているから。そういう張本人たちが、新聞の一面全てをつかって、著作権を遵守しましょうという広告を、恥ずかしげもなく張り出すから。ちゃんちゃら可笑しい。

著作権を守ろうとするレコード会社が一方にあり、他方にはレンタル業界が乱立していて、乱立すればするほど著作権がボンボンと破られていく(世話になってるインプロミュージシャンは、PCなんてコピーマシーンじゃん、のひと言)。二つの業界は対立しそうに一見見えるけど、でも実際はおんぶにだっこな関係だったりして(ツタ○の店内に足を踏み入れればわかるさ)、著作権をめぐるこのイビツな構造は問題だなぁと、ボクとてずっと思っているわけで、Mattinの話にちょっとだけ共鳴してしまった。