旅の5日目

旅日記 5日目
Instal 08を無事に網羅することができました。イベントの3日間は、思ったよりも多岐にわたるジャンルの音楽を聴くことができました。なかには、多少疑わしいものもあったりしましたけど。

ボクにとって、初日の一番の目玉はJohn Butcherでした。この人は親切なことに、演奏の前にこれから行おうとすることをいちいち解説してくれるのだが、常に「理論的に言えば」と前置きする。こういうパフォーマンスは、結構つまらないことが多々あるのだが、この人は全く別だった。

演奏という演奏をしない。ただスネアドラムとギターがテーブルに置いてあって、自分ではサックスを首からぶら下げている。スネアを、もしくはギターをほんの軽く触れるだけ。ギターを弾くこともないし、サックスを吹くこともない。ただ、ほんの微量の音を、ただ楽器に触れるように出して、あとは共鳴を待つのみ。楽器を演奏せずとも、音がボリュームを増していく。こういう演奏は初めて。最新号の『ワイアー』誌は彼が表紙を飾っているから、あとでまた、彼がどういう人物なのかを確認しましょう。

2日目。インキャパシタンツ(美川さんは不在)、Sabu Toyozumi、David Keenan、Alan Silva、Michiyo Yagi、Donald Dietrichなど、総勢9人がステージ上で、大規模なノイズを3時間にわたって、ノンストップで疾走する。もうこうなったら何でもあり。しかし、こういうのはやっぱり海をわたらないと見ることができないなぁと思う。日本では、数日かけて開催されるロックのイベントはいくらでも存在しても、ノイズとか、まぁ前衛音楽のイベントは皆無だもの。しかも、インキャパシタンツみたいに日本を拠点にして活動する人々は確かに存在しても、他のミュージシャンと共演するインキャパシタンツは今回が初めてだもの。

きっと、この辺の事情は日本におけるライブハウスの事情とか環境が大きく関わっているんだろうとは思うけれども、これだけJ-Noiseは海外でも随分と認知されているのだから、なんとかこういうイベントを日本でもできるようにならないものかと考えてしまう。そうでもしないと一種の頭脳流出みたいな現象が起こりかねないような気がする。いや、もう実際に起こっているのかもしれないなぁ。

3日目のイベントはMarginal Consortといって、全員日本人の演奏だった。これはどうも『ワイアー』誌のAlan Cummingsが関わっているらしいのだが、ボク自身の評価は、実はあまり評価できませんでした。このパフォーマンスには4人の日本人(Kazuo Imai, Yasushi Ozawa, Tomonao Koshikawa, Masami Tada)によるイベントだった。

ただ、ボクにはあまり好ましい演奏ではなかった。友人でミュージシャンのグレアムは「こいつらは本当にミュージシャンか?」と怪訝な顔だったし、彼の友人のシンディーはもっと辛口で、彼女はピアノ(クラシック)のトレーンングをちゃんと積んだ人なんだそうだが、「3要素は彼らの演奏にはないが、それだからといって、これが必ずしも音楽的な伝統とか慣習とかから、逸脱できているのかはかなり怪しい」といった具合だった。

ボクは彼らの演奏の前に、配布されていたパンフレットでもって彼らが何を目指しているのかを読んでいたから、それを一つの基準にして聴いていたのだが、やっぱり見ていてつまらなかった。

彼らのポリシーとするものは、それぞれの演奏はまったく独立した存在であって、一人の演奏が他の演奏に影響することもされることも排除する。そして音/楽を聴く行為も聴覚だけに頼るのでなく、他のあらゆる感覚をも含むこと。

特に後者に関して言えることは、程度の差こそあれ、彼らはみなかなりphysicalな演奏をするのだが、オーディエンスとしてのボクは、自分のポジションをどこにとって良いのか全く見当がつかなかった。彼らはそれほどにintrovertな存在だったし、ある意味self-indulgentな演奏とさえいい得てしまうかもしれない。正直、何をもって彼らが音楽のexplorationといえるようなことをしているのかが、全くつかめなかったのだ。あらゆる体の動き、物質どうしが接触することで発生する音を、作品の一部として理解する、ということなのか。まさか、今更そんなことを考えて音楽をやるやつはいないだろうとは思うが。

そんな3時間、ボクが唯一できたことは、目を閉じて、4つの演奏を個々の音とはみなさずに、総体として、音のマスとして捉えること。しかし、目を閉じて会場にいることは、聴覚しか頼らない聴取のみが可能なだけで、これでは彼らのポリシーの反してしまうのは明白だった。

結局よく分からないまま3時間は過ぎてしまった。なかには、どうしてこいつはわざわざ日本から来たのかと突っ込みたくなるような、やる気のなさそうなパフォーマーもいたことは確かだし。うーん、できれば忘れたい。

これからグラスゴーをあとにして、ロンドンへ向かいます。今夜は、EmbankmentのBoat-tingへ行く予定を立てています。ジャズのインプロを生で聴くのは、山本精一と芳垣デュオ以来でしょうか。楽しみにしています。