Racine

ロンドンで「アリャリャ??? まぁ!」という出来事があった。

Racineとは、かつてTransvision Vampというバンドでボーカルを担当していたWendy Jamesが渡米して組んだバンド。そもそもはベタなイギリス人(彼女のアクセントでアホでも分かります)。Wendy Jamesでソロ名義のアルバムも出している。なんと、Wendy Jamesはまだ健在なのだ。この事実は、ロンドンのインド人系の商店で『タイムアウト』を購入し、ホテルのベッドでクッキーをほうばりながら読んでいる時に知った。そもそもWendy Jamesがまだ活動していることにびっくりしたのだ。

Wendy Jamesを知ったのは今から10数年前。ちょうどTransvision Vampが解体され、ソロ名義でCDがリリースされた頃だ。恥ずかしいことだがTransvision Vampのことはよく知らないまま過ごして来た。今ではYouTubeで動画を拝見できるけれども、そんなものはない10数年前にTransvision Vampのことは、日本ではあまり調べようがなかった。

だから、ボク知ってるがWendy Jamesとはソロ以降である。というか、ソロのことしか知らない。もっと正直に言うと、ソロの1枚しか知らない。_Now Ain't the Time for Your Tears_の1枚しか知らないのだ。

Wendy Jamesが現在も活動していることを、何のノスタルジアもなくただ衝撃としてボクが受け取ってしまえたのは、彼女のソロの1枚が当時のボクにとってとても意味のある1枚だったことに関連しているような気がする。

当時はnew waveしか聞いていなかったのだが、その中でコステロはボクのなかで大きな存在であった。_Now Ain't the Time for Your Tears_の全曲は、コステロと当時の奥様のケイトの作だ。実は、Wendy Jameはコステロ経由でボクの耳に入ってきた。

なぜコステロが? というところだが、ボクの記憶によると...Wendy Jamesがめちゃくちゃムシャクシャした気持ちはコステロなら理解してくれるだろうと思い、彼に手紙を書いたら、コステロから返事を受け取ったのだけど、その返事というのがすべて楽曲の楽譜だった、と。その間わずか2、3週間だった(と思う)。後にコステロはWendyに提供した曲をカバーしたな。『ブルータル・ユース』とか、その時期のシングルあたりで。

_Now Ain't the Time for Your Tears_なんて、今から思えば平凡な、ありきたりのパンキッシュな楽曲だ。ただこの1枚のパンチ力はどこにあるかというと、女の子に楽曲を提供しておきながら、男コステロの鬱屈したsexual desireがそこかしこに散りばめられているのだ。それでも歌詞のいわば語り手っぽい存在は女の子に設定されているのだから、まぁ、なんか、すごいことになってるよね、やっぱり、この時期のコステロって。

このな〜んかぁ凄いことになっているコステロとWendy James。この時の組み合わせはばっちりだったのだと思う。Wendyのムシャクシャ感とコステロの鬱屈感。ばっちりというか、完璧でしょう。気分的には見事なシンクロだもの。コステロ自身も、かなりWendyソロの仕上がりに満足してたと言ってた気がする。

Racine(どうも本人は「レイシーヌ」と発音しているようなのだが)は既に数枚のアルバムをリリースしていて、カムデンのUnderworldなどでもライブ実績を積んでいるらしい。YouTubeで聴いてみたが、ボクにとってはMostphew山本精一などのパンクバンド)以来の発見だ。音も鋭いし、勢いはあるし、ノイズってものアリなバンドのようだ。彼女のハスキーさも好みであるし。ただ、ロンドンで聞き込みしておくべきだったなと、自分のリサーチ力のなさを悔いている。