David Keenan

インプロものに強い批評家David Keenan。『ワイヤー』誌などいろいろな雑誌に寄稿しているようだ。

彼の影響力はとても強いと思う。彼の独自の視点はつねに人びとの関心の的になっていると思うけど、その反面、反感をかったり物議をかましたりということもこれまでしばしばあった。

ボクなんかは彼の批評を読むと、好みに関しては彼と共有している部分があるなぁと思う。たとえば2009年のInstalについてKeenanが大友良英Sachiko Mに下した判断は的確だと思った。影響力の強さは、ボクが思うに、これ以降大友のCDは雑誌の中でほとんど言及されなくなったことにも見てとれそうな感じだ。

しかし、John RusseellなどのCDをリリースしたAnother Timberについて書いたKeenanの記事は、なんだかわかるような、わからないような。

インプロはセクシーなことはめったにないけれど、理想的にはセクシーであるべきだと主張しているらしい。それでいて、今のインプロギタリストはダメだ、なぜならセクシーさがないし、その一方で、今日高評価のギタリスト(たとえば灰野さん)は、インプロギターのそういう側面を決して否定するものではない、とのこと。こういう考え方の土台となっているのはどうも、Keenanは「セックスってインプロじゃん」と思っていることにあるようだ。

この記事が、ものすごい反響を読んでいて、翌月の記事にはKeenanに対する批判の投書が4通も寄せられているし("Improv Your Sex Life"のコーナー)、雑誌巻頭のDerek Walmsleyもこの記事に反応している。

エレクトロニクスのおじさん演奏者のSteve Beresfordは紳士的かつ強烈にアイロニカルな筆致でKeenan批判を展開している。詳細は省くけど、Beresfordは「われわれが関わってきたインプロがセクシーじゃなくてスミマセンねぇ、ずいぶん時間を無駄にさせてしまって申し訳ない」なんて感じ。でも一番笑えるのは、「自分はいつも演奏している時は"penises"のことを忘れたことがない」だって("penis"の複数形なんて初めて見た気が。でも、なぜ複数形...?って思ったけど、それはBeresfordはギターの形は女性の身体ではなくてphallicな物体だと捉えてるからだろうと一応の理解をすることにした)。

その他、Russellと共演歴のある人の投書では、Russellの公演後のコメントは今になって考えてみるとかなりセクシーだったとか、また別のひとは、Keenanは「おてて」ですることしか知らなくて、セックスには無知だとか、まぁ、読んでて泣けるわ。

WamlsleyはちょっとKeenanに同情的。ボクもちょっと彼の言うことがなんとなくわかる気がする。知り合いのインプロギターなんて、ライブ中でも録音物でもボクが体験したことだけど、演奏中にその人の「はぁはぁ」いう呼吸の音が、アンプの音をかき分けるようにして聞こえてきちゃうんだから。ギターをphallicに捉えるとなると、「はぁはぁ」なんてちょっとした行為の副産物みたいだよね。それはもう、猛烈な弾き方をするわけですよ(これは灰野さんのことを言ってるわけではありません)。

でもKeenanはそういうことを言いたいんじゃないだろうなぁ。どういう形態であれ作品に宿る力を求めるならば、そういうギタリスト以外は淘汰されてしかるべきだ、ってことのような気がする。それくらいの、リビドー的に爆発するようなエネルギーがインプロギタリストには最低限必要ってことかな。なんだかフロイト思い出しちゃうなぁ。

それにしても問題は、Braxtonの弟子?世代のMary Halvorsonみたいな女性ギタリストの評価はKeenanとしてはどうするつもりなんすかね?